形容詞の補語
これまでにも随所で述べてきたように、モンゴル語では、名詞を修飾している形容詞は修飾語成分ではなく、コピュラ文(措定文)が連体節になっているものと見なされます。このとき、形容詞はコピュラ文の述語の補語ということになりますが、形容詞自身も別の補語を従えることができます。
形容詞が補語をとる場合、意味やつながり方によっていくつかの構文があります。
主題と主語の構文を作るもの
形容詞自身の補語のひとつめが、構文のうえでは補語であるにもかかわらず、意味的には形容詞の主語となっているパターンです。構文上の主語は文全体の主題を表します。このモジュールではこの構文を仮に主題・主語構文と呼ぶことにします。
主語・主題構文では、形容詞自身が所有の派生接辞をとった形になります。
【主題:主格】 【主語:主格】 【形容詞-тай】
Би ажил ихтэй. 私は仕事が多いです。
Дорж хөл муутай. ドルジは脚が悪いです。
この構文は、【主題(=構文上の主語)】に含まれる一部分が【主語(=構文上の補語】という関係にあります。すなわち、意味的には次のような属格で結び付いていた「全体」と「部分」の「全体」にあたる名詞が主題として取り上げられたのがこの構文ということになります。
Миний ажил их. 私の仕事は多いです。
Доржийн хөл муу. ドルジの脚は悪いです。
これは、日本語の「~は…が」構文のうち、「象は鼻が長い」というパターンとまったく同じですが、モンゴル語の場合は、「長い」にあたる形容詞が所有の派生接辞をとるというわけです。
【象の鼻が】長い。
象は【鼻が】長い。
構文上の補語が形容詞にとっての意味的な主語であるということは、その名詞が形容詞の修飾対象であることを意味しますので(例:花が赤い→赤い花)、主題・主語構文は次のような所有構文とも同じ意味になります。
Би их ажилтай. 私には多くの仕事があります。
Дорж муу хөлтэй. ドルジは悪い脚をしています。
主語・主題構文を作る形容詞には一定の範囲があり、すべての形容詞からこの構文が作れるわけではありません。主題・主語構文を作りやすい形容詞としては次のようなものが挙げられますが、これらのほかにも、類推によってこの構文が作られることがあるほか、ニュアンスによってはこれらの形容詞が次の項の構文を作ることもあります。
сайн よい(ただし派生接辞が付くと сайтай という形になります)
муу 悪い
их 多い
бага 少ない
урт 長い
богино 短い
олон 多い
цөөн 少ない(ただし派生接辞が付くと цөөтэй という形になります)
өндөр 高い
形容詞の範囲を補足するもの
形容詞自身の補語にはこのほか、修飾対象が主語や被修飾名詞として別にあるときに、形容詞の範囲を補足するものがあります。
このとき、補語は造格または与位格で表されますが、ふたつの構文の使い分けについては現在のところ十分な記述がなく、名詞と形容詞の種類によって経験的に使うほかありません。
【主語:主格】 【補語:造格】 【形容詞】
【主語:主格】 【補語:与位格】 【形容詞】
Монгол малаар баян. 家畜において豊かな→モンゴルは家畜が豊かです。
Тунгаа надаас насаар залуу. 年齢において若い→トンガーは私より年が若いです。
Азжаргал гадаад хэлэнд мундаг. 外国語において上手な→アズジャルガルは外国語が上手です。
Манай ах моринд гаргуу. 馬において上手な→うちの兄は馬が上手です。
形容詞の中には、このタイプの構文と前の項で見た主題・主語構文の両方をとるものもありますが、ニュアンスは微妙に異なることになります。
Мөгий сурлагаар сайн. 成績においてよい→ムギーは成績がよいです。(形容詞の修飾対象は Мөгий)
Мөгий сурлага сайтай. ムギーは成績がよいです。(形容詞の修飾対象は сурлага)
形容詞の目的を表すもの
以前のステップで学習した時間関係を表す連用節を作る副動詞形が、何らかの状態を表す形容詞の補語として、「~するのに」・「~するために」という状態の目的を表すことがあります。
【語幹-хад】 【形容詞】
Манай онгоц хөөрөхөд бэлэн боллоо. ご搭乗機は離陸の準備が整いました。(飛行機のアナウンス)(直訳は『私たちの飛行機は離陸するために十分な状態になりました』)